王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

エリナは嬉しいのか悲しいのか、よくわからない気分だった。


自分が、泣けるほど誰かを好きになれるとは思っていなかった。

だけどエリナがどんな選択をしようとも、その好きな相手との間に幸せな未来は永遠にやってこない。


(どうして、好きになったのがキットだったんだろう)


恋がこんなにもままならないものだなんて、今まで知らなかった。


ポロポロとエリナの頬を伝う涙が、何かの引力に引き寄せられているかのように、次々と小瓶の中へ滑り落ちていく。

エリナは白い両手で顔を覆い、それから涙を拭ってまっすぐに前を見た。


明日、すべてを決めるラズベリーが、今はまだ白いその体に月の光を浴びて輝いている。

『甘く香しいはちみつにブルーローズの花びらを一枚浸し、銀色の月夜を三晩眺め、恋する乙女は涙を流した。溶け出し空色に輝くそれにラズベリーを加え、13時間の後、禁断の青い果実は完成されたり』

歴史書の一節を、心の中で小さく唱える。


(だけど、好きになっちゃったんだから、仕方ない)


いずれにせよ、明日エリナがやるべきことだけは決まっているのだ。

元の世界には戻れるかどうかより、キットの命を救えるかどうか。


今のエリナにとってはそれが何より重要で、誰に何と言われようとも、それだけはやり遂げるつもりだった。
< 211 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop