やわらかな檻
「ご案内いたしますわ、小母さま」

「あら、売り子さんに案内してもらえるなんてラッキー。シオンは貴女の担当なのね?」

「ありがとうございます。はい、僭越ながら私が」


 ……が、日本語として正しいかどうかは分からない。

 とりあえずそれだけ言って、校門と校舎をつなぐ桜並木を先導し歩き始めた。


「花売りの会場は温室前です。行きましょうか」

 この人はおそらく、案内なしでも楽々と花売りの会場にたどり着ける。



 十月に行われる我が紫苑学園高等部の文化祭、その中でも人気イベントの一つが『紫苑の花売り』だ。
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