狡猾な王子様
あの日から二日後、木漏れ日亭への配達の日がやって来た。


英二さんに会いたくないどころか、逃げ出したいとすら思うのは初めてのことで、今朝はなかなか布団から出られなかった。


お父さんや、お休みの秋ちゃんに頼めば配達を代わって貰うことはできたけど、いくら実家の手伝いと言えどもこれは仕事。


こんな私情で放り出すわけにはいかない。


昨夜から自分自身にそう言い聞かせ続け、漏れそうになるため息を必死に飲み込みながら木漏れ日亭に向かった。


もし、今日もあの人がいたら……。


ついそう考えてしまっては、ブレーキを踏みそうになる。


だって、また同じような場面に遭遇してしまったら、今度こそその場で泣いてしまうかもしれないから……。


すぐに帰ろう……。そうすれば大丈夫。


木漏れ日亭の駐車場に車を停め、トマトの段ボールを抱えながらそう決めて、木造のドアに手を掛けた。


ゆっくりと、深呼吸をする。


意を消してドアを開けると、店内は静まり返っていた。

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