狡猾な王子様
「こんにちはー……」


いつもよりも控えめに声を出して店内の様子を窺ったけど、人のいるような気配がない。


まさか黙って荷物を置いて帰るわけにはいかないし、どうしようかと考えた挙げ句、スマートフォンを取り出した。


いつもはお店に電話をするから、英二さんの携帯に掛けたことは一度もなかったけど、一応どちらの番号も知っている。


これは仕事なんだと言い聞かせ、気まずさを堪えながら発信ボタンを押すと、すぐに機械的な音が外から聞こえて来た。


スマホを耳から離すと、ドアが開いて……。


「冬実ちゃん、ごめんね。もしかして、結構待たせちゃったかな?」


申し訳なさそうに微笑んだ英二さんが、焦ったように店内に入って来た。


「いえ……。あ、すみません……」


鳴り続ける着信音にハッとして、発信終了のボタンを押す。


「ううん、俺の方こそごめんね」


英二さんはいつものように穏やかに笑って、私が持っている段ボールをスッと取った。

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