偽装結婚の行方
会社には始業時刻よりもだいぶ前に着いてしまい、俺はパソコンを立ち上げ、未読のメールを片付けたりしながら始業時刻になるのを待った。そしてその時刻になると、俺は意を決して席を立ち、総務部へ向かった。


「よお、阿部、おはよう」


俺は総務部へ行くと、まず同期の阿部を捕まえた。


「おお、中山か。おはよう。朝からどうした?」

「渡辺さんって人はいるか?」


そう。俺は渡辺という男に会おうと思う。おそらく尚美の相手であろう男に。そして尚美が俺に言った事は本当なのかどうか、そいつに直に確かめようと思った。


「部長の渡辺さんか?」

「ああ」

「えっと……ああ、いるよ。ほら、窓際の席に座って電話してる人がいるだろ? あの人だ」


阿部の視線を辿ると、確かに窓を背にして部長席と思われる席に座り、耳に受話器を当てている人物がいた。


「わかった。サンキューな?」

「渡辺部長に何の用なんだ?」


すぐに行きかけた俺に阿部がそう聞いてきた。


「あ、いや、システムの事で、ちょっとな」

「ふーん、そっか」


ふうー。阿部に聞いたのは失敗だったかもしれない。変に勘ぐられなければいいが……

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