躊躇いと戸惑いの中で
「とりあえず、ビールだな」
河野が店員さんを呼んでビールを頼み、お絞りで汗を拭いている。
「もう、そのおっさんみたいな行動、やめなよ。まだ三十でしょ」
「今日で、三十一だ」
「え? うそ。今日、誕生日なの? 早く言ってよぉ」
「言ったら、何かしてくれたか?」
「ここより、少しだけランクの高いお店で飲んだかもよ」
「少しだけってなんだよ。もうちょっとはり込めよ」
「河野にはり込んだってしょうがないじゃん」
ケラケラ笑いをこぼして言ったところで、河野が注文したビールが届いた。
「では、お疲れ様です。とおめでとうございます」
敢えて恭しく言うと、河野はちょっとだけ嬉しそうな顔をしてビールを口にする。
「俺も、もう三十越えだよ。まいったなー」
「何言ってんの。男の三十なんて、これからだって言ってたじゃない」
「まーな」
「男は、これからどんどん脂がのって、いい感じに仕上がっていくんだろうけど。女の三十はもう下り坂よ。その点、本当に羨ましいって思うわ」
「碓氷は、大丈夫だよ。まだ脂がのってる」
「まだって所に引っかかるんだけど、これ以上触れないでおくわ」
引き下がる私を、面白そうに笑ってみている。
こんな風に笑っているけど、実際に女はその点損だよね。
お肌も曲がり角だし、若い子の話にもついていけない。
体力は落ちるし、周囲からは結婚だなんだと、やいのやいのつつかれるし。
考えたら、溜息しか出ない。