マスカケ線に願いを
第五条 恋の矢を穿つべし
溺れる心
「ユズ」
「んっ……」
私の声は、ユズの目覚まし。
「朝だよ」
「ん」
その声に応えるように私を抱きしめるのは、ユズの日課。
「杏奈……」
「んむ」
そうして、私の口を塞ぐのも。
あれから、二人でいる時間が格段に増えた。
私がユズの部屋に泊まる機会も増えた。今までは、週末以外は泊まらなかったのに、最近ではユズに誘われるがままになっていた。
時には、私から誘うことも。
ユズと一緒にいると凄く安心できたし、ユズは私の不安も全部包み込んでくれる。それが気持ちよくて、一緒にいる時間を大切にしたいと思った。
「杏奈ちゃん、おはよう!」
「おはようございます」
以前よりも、小夜さんと一緒にいる機会も増えた。
小夜さんはコウの話を聞きたいみたいだけど、私もそこまでコウと仲が良いわけではない。
私の顔をまじまじと見た小夜さんが、突然訊いてきた。
「杏奈ちゃんさ、最近幸せ?」
「え?」
いきなりの質問に、私はきょとんとした。
「最近の杏奈ちゃん、桃色のオーラが見える」
「も、桃色?」
まじめな顔でそんなことを言う小夜さんに、私は戸惑った。
「恋っていいわね」
うふっと笑って、小夜さんが自分のデスクにつく。半ば呆然とした私だったけど、すぐに自分の席について仕事を始めた。