マスカケ線に願いを

「杏奈は、なんでも上手くこなせるくせに、なんで自分のことになると不器用になるんだ?」

 呆れたようにユズが言って、私を抱きしめた。

「杏奈、一人で堕ちるくらいなら、俺に気持ちをぶつけろ。俺に遠慮なんかするな」
「遠慮……?」

 ユズの言葉にはっとした。

「そう、杏奈は俺に遠慮してるだろ。でも、そんなの要らないから。杏奈は素直になればいい」
「……ユズっ」

 私は、ユズを抱きしめ返した。

「ほ、本当は……寂しかった」
「うん」
「ごめんなさい……」
「わかった」

 ユズはそう言って、私を抱きしめた。

 素直になれなかった自分の心に腹が立つ。そのせいでユズを怒らせてしまった。

「杏奈、もっと甘えてくれよ」
「……そんなことして、ユズは私を嫌いにならない?」
「言っただろ、俺には杏奈が必要だって」

 ユズはそう言って、私の唇を奪う。

「……」

 私は、ユズの耳元に顔を近づけた。

「……私にもユズが必要」

 そう、小さい声で伝える。
 それを聞いたユズが目を見張って、微笑んだ。


 思えば、このときから少しずつ何かが狂い始めていたのかもしれない。

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