マスカケ線に願いを



「小夜さん、お昼一緒にどうです?」
「え、いいの?」

 ユズと一緒にいるときは、遠慮してか小夜さんは一緒に食べたがらない。けれど、二人っきりになるというのはコウがいる時点で無理なので、せっかくだから誘ってみることにした。

「ええ、私一人じゃ、漫才コンビの二人相手は大変なんです」
「漫才コンビ?」

 私の言葉に、小夜さんは不思議そうな顔をした。

「蓬弁護士と久島弁護士ですよ」

 事務所にいるときは律儀に苗字で呼ぶ私。そんな私に小夜さんが噴き出す。

「杏奈ちゃんってば、確かに二人は面白いけど、漫才コンビって」
「二人の実力甘く見てますよ。たまに私、ついていけないんですから」
「そうなの? せっかくだからご一緒しようかしら」

 了承してくれた小夜さんと一緒に階段を上っている途中で、木山弁護士とばったり出くわした。

「あら、姫君ちゃんじゃない」
「ひ、姫君ちゃんって」

 にこにこと笑ってそんなことを言う木山弁護士に、私は苦笑する。
 しかしうちの事務所の弁護士は、揃いも揃ってキャラが濃い気がする。

「うふ、今からユズ君と一緒?」
「ええ、まあ。あ、木山弁護士、こちらは同じ司法書士の岩山小夜さんです」

 私は慌てて小夜さんを紹介した。

「小夜さん、木山静香弁護士です」
「初めまして、岩山さん」

 にっこりと笑う木山弁護士に、小夜さんは一瞬泣きそうな顔になった。
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