幸せそうな顔をみせて【完】
9 私の好きな人
「お疲れ」


 そんな言葉を呟くようにいうと、副島新は私の方を見つめ、表情を変えずにそのまま私の横に座る。そして、小さな溜め息を零した。隣のいて、それも意識していないと分からないというくらいの小さな溜め息にドキッとしてしまった。なにか仕事で上手く行かないことでもあったのだろうか?


「何かあったの?」


「うちの社の商品がいいのは分かるけど、この金額じゃ採算が取れないって。結構、頑張って提案書を用意したから正直凹む」


 少し顔を歪めながらニッコリと笑う。でも、正直、吃驚した。


 今まで何を聞いても、副島新はこんな風に自分の気持ちを私にというか、周りにも吐露することはなかった。でも、今は…私には言ってくれる。申し訳ないけど、仕事が頓挫したのは残念だと思うのに、副島新の傍に近付けたようで嬉しいと思ってしまう。


 これも恋心ゆえ。


 ゆっくりと話していく副島新の話を聞いているうちに、全く同じことを私は今日緑川さんに言われたのを思い出していた。うちの社の商品はとてもいいらしい。でも、営業をしていく上で型に嵌ったものではなく…何か先に一歩進めないといけない時期に私も副島新も来ているのかもしれない。一つの階段を上がるのは難しい。


 でも、もしかしたら副島新と一緒なら登れるのかもしれない。





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