幸せそうな顔をみせて【完】
「ありがとうございます。この仕事は自分で頑張りたいです。でも、困ったところがあったら相談に乗ってください」


「その考えは瀬戸さんらしいね。何か困ったら遠慮なく言って」


「はい」


 そういうと小林主任は自分の席に戻って閉じていたパソコンを開くと指を動かしていく。徐々に優しく穏やかは微笑みは消え、真剣な表情を見せる。私以上に難しい仕事をしているはずなのに、それでも周りにも気を配れる余裕も持っている。そういう上司の下で働ける私は幸せだと思う。


『頑張ろう』


 それからしばらくして自分の仕事が終わり、次は副島新に頼まれた仕事に掛かる。校正と言っても、副島新が作った文章だから、誤字脱字は全くない。表現も悪くないから読んだ人に分かりやすく説明が織り交ぜられている。でも、その文章の中で少しだけ表現を柔らかい方が読んだ感じがいいと思ったので、その分だけ訂正をしてパソコンで書類を作成した。そこまで必死に頑張った私は達成感に包まれていた。



 そして、合間にコンビニで買ったサンドイッチを口に運びながら仕事をしていると時間は飛ぶように過ぎ、副島新に頼まれた仕事まで終わると定時を過ぎていた。


 副島新が午前中から出掛けたまま、帰ってきたのは定時を過ぎて、他の社員が帰りだした頃のことだった。営業室に入ってきた雰囲気では仕事が上手く行ったのか、行かなかったのかさえも分からない。


 普通通りの副島新だった。


 
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