愛を待つ桜

(2)愚か者の正体

聡は、稔夫婦に連絡を取った。

娘を連れて駆けつけて来てくれた亮子に悠を預け、稔の車で病院に向かう。


今度ばかりは、どうしても匡が許せない。

3年前はともかく、今は兄嫁となった夏海に近づくなどありえないことだ。
無表情を繕ってはいるが、今の聡は、まるで噴火寸前の活火山のようだった。

意識はそこにはなく、見るとはなしにフロントガラスを凝視している。不意に対向車のライトを浴び、彼は目を細めた。


光の残像の中に浮かんだのは、双眸を潤ませ、愛を請うように自分を見上げた夏海の瞳。 


聡は夏海を愛していた。
それこそ、夏海が他の男に笑顔を見せるだけで、嫉妬に胸を焦がすほど。可能なら彼女を家に閉じ込め、独占したいとすら思っていた。

だからこそ、3年前のことが忘れられずにいたのだ。


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