愛を待つ桜
もう夏海の中に聡の言葉を恐れる気持ちはなかった。

わずかな希望にしがみ付き、聡の愛を欲しがる心は完全に消え去った。


最後に聡の顔を見つめ、夏海は軽く微笑む。


「このお邸であなたに出逢ったのが間違いでした。愛したりしなければよかった」


(――私の桜は2度と咲かない)


「お義父様とお義母様に、お騒がせして申し訳ありませんでしたと、お伝えください」


玄関に立ち、深く頭を下げる。

夏海は2度と振り返ることなく、一条邸を後にした。


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