愛を待つ桜
3年前の聡は、夏海の全ては自分のものだと信じていた。

それが偽りだと聞かされたとき、彼は言葉の限り夏海を罵倒し、子供を殺せと迫ってしまう。
それは、如月や双葉が評したように、普段の彼からはとても考えられない言動だった。

今回も同じ、愛するあまり信じられない。

いや、聡が信じられないのは自分自身なのだ。

過去の経験が、彼の男としての価値を奪っていた。
彼の中で”一条聡”という男は、あくまで資産価値として金額に換算されるだけ……ひとりの男としては限りなくゼロに近い。


(俺のような男が、夏海に愛されるわけがない)


彼の想いは全てがそこに行き着いた。


だがこれらが全て、偽りの迷宮で起こったことだと知らされたとき。


最初に夏海を抱き締め、愛し合ったことが真実であったと気付かされたとき。


彼は自らのあやまちを知る。



< 176 / 268 >

この作品をシェア

pagetop