散華の麗人

狸の戦

一正が表情を変える。
「……それで、成田国のことやけど」
「はい。既に手筈は整いました。明後日、日の出と共に。」
さっきまで明け透けに笑っていたとは思えないような真剣な表情をする一正に、リアンは答えた。
(変わった男だ。)
質問に答えたリアンは思う。
(………いや、昔からか。)
少し昔を思いながら、リアンは笑った。

『奴は狸だ。』
昔、陸羽が一正をそう例えた。

『どういう意味です?』
『そのままの意味よ。あやつはふざけた猿にも真面目な人間にもなる狸だ。せいぜい、ぬしも騙されぬようにな。』
微笑混じりに陸羽が言った。
今のリアンにはあの時の言葉がよくわかる。
(敵に回すには少々癖が有りすぎて困る。)
リアンは一正に対してそう評価している。
「明後日か。足軽部隊のうち、少しの人数しか動かせん。戦には、準備をする期間も必要や。」
「承知しております。」
リアンは静かに答えた。
「しかし、これ以上の先延ばしは戦況を悪化させる原因になり兼ねません。」
「わかっとる。せやけど、準備もせずに戦に挑むというのは無謀や。」
一正は強く言う。
「ですから、祭はやめるように言ったのです。」
「あれは必要なことやった。」
呆れた様子のリアンに一正は“わしにとってな”と付け加えて言った。.
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