祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「ねぇケン。人はなんで誰かと付き合いたいと思うんだろうね。遊びたいとか、一緒にいたいとかなら友達のままでいいじゃない。なんで恋人になりたいと願うんだろう。

…そんな気持ちなんかなければ、私達はうまくやっていたはずなのに」



「…幸せにしたいからだよ。好きになった人を幸せにするのが自分でありたいから、その幸せを一緒に感じたいから恋人になりたいと思うんじゃないかな?」




ケンはキヨにニッコリと笑いかける。


ケンの笑顔は純粋で幸せな気持ちにさせてくれそうな程、屈託のない笑顔。






「幼なじみで過ごしてきたから存在が近すぎて女として見られなかったんだよね、きっと。だから空回ってばかり…」


「そんな事ないよ。俺はキヨの事ずっと女の子として見てきた。…愛する女性としてね。ずっと言いたくても言えなかった事」




ケンはキヨを見つめる。


ずっとキヨだけを映してきた瞳が今くっきりとキヨを映し出す。




「好きだよ、キヨ。ずっと…大好きだったよ」

「ケンっ…」




ずっとキヨがイノリを好きな事を知っていたケンは、キヨを困らせたくなくて一方的に想いを伝えたりはしなかった。



イノリがいなくなった今、彼は十数年越しの想いをやっと、ちゃんと口にする事が出来たのだ。




彼の想いに気付いていたキヨは、ケンが伝えられない苦しみをずっと味わっていたと思うと苦しくて辛かった。




気持ちを伝えられない辛さは、痛い程知っているから…。
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