祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】

12・月に祈りを、風には花を。そして鳥は

翌日。

キヨはカゼと共に産婦人科に行き、検査を受けた。




「おめでとうございます。ご懐妊ですよ」



医者は並んで座っているカゼとキヨは見つめる。





「これがお腹の中の写真です。この小さな黒い点があなたの中に宿る新しい命です」

「…私の…赤ちゃん…」





キヨは写真に写る命を呆然と見つめていた。


その隣で、カゼと医者が出産やこれからについて話していたが、キヨには何も聞こえなかった。





「………キヨ?」



カゼに名前を呼ばれ、キヨが我に返った時はもうすでに病院から出ていた。






「………どうする?産む?堕ろす?」


「…私ね、本当に妊娠していたら堕ろすつもりでいたの。でも…折角出来た命を私のワガママで殺しちゃってもいいのかな?この子は…生まれたいよね。生きたいよね。簡単に消される為に命を授かったわけないよね…」




そう言って泣き出したキヨを、カゼは優しく抱き締めた。




「………キヨ。産んでくれ。俺との子どもを産んで。一緒に育てよう?俺が愛すから。ちゃんと働くから。キヨも子どもも…大切にするよ」

「…っ!うん…うん!!カゼっ」




新たな命を2人で大切にすると心に決めたキヨとカゼは、暫く抱き合っていた。



カゼはキヨから体を離し屈むと、キヨのお腹に耳をあてた。




「………パパですよ。聞こえたら動いて下さい」

「まだ動かないよ」




キヨはカゼの仕草に薄く笑いながら、カゼの髪を撫でた。


カゼなりの励ましなのだと思いながら。






「ねぇカゼ、お願いがあるの…」

「………うん。何?」

「カンナとケンにはまだこの事言わないで。ちゃんとこの子が生まれたら…自分の口から伝えるから」

「………わかった。言わないよ、誰にも」





カゼは優しく微笑むとキヨの額にキスを落とした。
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