結婚狂詩曲
セシリアがアマーリエを相手に不満と愚痴をこぼしている時。グローリア王宮では、アルフリートとアルディスの兄妹がウキウキと楽しそうに話をしていた。

彼らの前に広がっているのは絹やレースをふんだんに使ったドレス。そして、大勢の名前の書かれたリスト表。そう、セシリアの意思に関係なく、この兄妹の間では結婚式の準備が着々と進んでいるのだった。



「アルディス、セシリアには派手なのは似合わないだろうな」


「そうですわね。彼女にはシンプルなものが一番ですわ。でも、そういったものほど、職人の腕がよくなければ」



そう言って、アルディスはどのドレスがいいだろうかと物色していた。そのどれもが職人技といってもいいものばかりなのはいうまでもない。その中の一つにアルディスは目を輝かせていた。



「お兄様、これがよろしいわ。派手ではありませんが丁寧な仕立てですもの。それにセシリアにはこういう色がよく似合いますわ」



そう言って、アルディスはドレスを広げている。スラリとしたそのドレスのデザインはセシリアの姿の良さをひき立てるのに十分だろう。それをみたアルフリートはすっかり、ご機嫌になっているのだった。



「さすがアルディスだよ。これなら、絶対セシリアに似合うだろうな」



アルディスの差し出したドレスをアルフリートは満足げな表情でみている。彼の頭の中では、このドレスを着て自分の横にいるセシリアの姿がはっきりと浮かんでいるのだった。



「これを着て、セシリアが僕の横にいる。なんて素晴らしいんだ」


「お兄様、帰っていらっしゃいませ。まだ、セシリアは承知したわけではありませんのよ」



自分の妄想で舞い上がっている兄を現実に引き戻すアルディスの声。さすがにそれを聞いた時、アルフリートも現実を思い出しているのだった。



「そうなんだ。どうして、セシリアは承知してくれないんだ。他の誰が反対しているわけじゃないだろう。それに、セシリアに好きな相手がいるなんて、聞いたこともない」



セシリアが自分の求婚を受け入れようとしない理由がわからないアルフリートは頭をかかえている。もっとも、それはアルディスにしても同じことだろう。

たしかに彼女も、アルフリートが自分に甘いという意識はある。だが、それがシスコンと世間でいわれているものだとはわかっていない。しかし、筋金入りのシスコンと言われていたアルフリートの言動。それに、セシリアは困り果てていたのだ。その彼からの求婚をすんなりと受け入れられるはずがない。そして、もっと大きな理由がある。

それは、セシリアが誰にもいうことのできない相手を思っているということ。

その相手とはアルディスの婚約者であるカルロス。しかし、彼がアルディスに惚れ込んでいることを知っているセシリアはそれを口にできないこともわかっている。だからこそ、彼女はアルフリートと結婚することで、妹夫婦となる二人をみるのが辛い。だが、それはセシリア自身も気がついていない思いでもあるのだった。



「アルディス、ここまで準備は進んでいるんだぞ。ここでセシリアに断られたら、僕の体面は丸潰れじゃないか」



妹にすがりつくようにして嘆いているアルフリート。彼のその姿にアルディスはみえないようにため息をついている。彼女にしても、アルフリートが誰かと結婚して落ち着かないことには、こんな状態がいつまでも続くのがわかっている。こうなったら、セシリアには悪いが、なんとしても彼女にアルフリートの面倒をみてもらうのだ。アルディスは改めて、そう決心していた。



「お兄様、そんな情けない声を出さないでくださいませ。仮にもお兄様は、グローリアの王太子ではありませんか」



アルディスがそう言ってアルフリートを慰めている時。

二人がいる部屋を凄まじい勢いであけている存在があった。



「一体、どういうわけですか! いつ、私が結婚することを承知したというのですか」



この日、宮中にやってきたセシリア。彼女は、周りからアルフリートとの結婚を祝う言葉をかけられている。そのことにすっかり腹を立てた彼女は、兄妹のいるところに怒鳴り込んできていた。



「あら、セシリアじゃない」



彼女の感じていることなどどこ吹く風、というアルディスの態度。しかし、このままでは絶対にダメだと思ったアルディスは目をウルウルさせているのだった。



「セシリア、どうしてダメなの? わたくし、セシリアが本当のお姉様になってくれると思っていましたのに」



そう言うなり、アルディスはヨヨとばかりに泣き崩れている。それは、彼女なりの一流の芝居であり、セシリアを泣き落とそうとしているもの。しかし、アルディスが一番大事というセシリアにはそれがわかっているようでわからない。すっかり、焦ってしまったセシリアはアルディスの手を握りしめていた。



「そんなにおっしゃらないでくださいませ。アルディス様を困らせるつもりなどありませんわ」



セシリアの言葉にアルディスはニコリと笑っている。それは、どこか黒い微笑といえそうなもの。しかし、セシリアはそれに気がついていない。そして、彼女がアルディスにした返事でアルフリートとの結婚が正式に決定していたのだった。



~Fin~





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