スイートホーム
「あ、守家さんちょうど良かった」


全員夕食を食べ終え、後片付けも終盤に差し掛かった頃、加賀屋さんが右手で小銭をチャリチャリ振りつつ食堂に現れた。


「あのさ、来週火曜日の昼メシ、キャンセルしといてもらいたいんだ。突然シフトが変わっちまって」


「あ、そうなんですか」


心を無にして一心不乱に流しを磨いていた私はその手を止め、壁際のカレンダーをチラリと確認してからカウンター越しに声をかけている加賀屋さんに視線を合わせた。


「火曜日って事は、11日ですよね?」


「うん。実は他にもちょこちょこ変わりそうなんだけど、明日出勤してみないと詳しい事は分からないんだ」


いかにも困ったように、眉尻を下げながら加賀屋さんは続けた。


「とりあえず、火曜日はもう確定だから、早く言っておかないとと思って」


「分かりました。ひとまずそこは変更しておきますね。後で改めて予約表を提出し直して下さい」


「了解。よろしくね」


片手を上げ、笑顔でそう答えながらカウンターを離れると、彼は当初の目的であったのだろう飲み物購入のため、自動販売機へと向かった。


「何にすっかな~…」と独り言にしては大きすぎる呟きを発しながら歩を進める加賀屋さんのその姿に、思わずくすりとしたあと作業に戻る。
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