憎悪と、懺悔と、恋慕。
 
 「・・・ちゃんと謝ったじゃないですか」

 「もっかい言ったら、鼻フックしてやろうと思ったのに」

 木崎センパイが右手の人差し指と中指を、ワタシの鼻の近くで動かしながら笑った。

 ワタシって、どうしたって恋愛対象にならないんだなって思い知らされる。

 普通、好きなコに鼻フックはしないもんなぁ。

 ついつい出そうになる溜息を飲み込む。

 そして、本日2回目の帰宅。

 「今度こそ、さっさと家に入れ」

 木崎センパイが『バイバイ』ではなく『シッシッ』と追い払う様に手を動かした。

 「・・・スイマセンでした。 送ってくれてありがとうございました」

 ペコっと頭を下げると『ん』とだけ言って、木崎センパイはアッサリ帰って行った。

 木崎センパイの背中を少し眺めてから家に入った。

 玄関で靴を脱いでいると、ポケットの中で携帯が光っている事に気付いた。

 〔カイロ、アリガトウ〕

 木崎センパイからのLINEメッセージだった。

 木崎センパイのアホ。

 どんだけ好きにさせたら気が済むんだよ。
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