新緑の癒し手
「もう一度、問う。何故、笑う」
「そ、それは……」
「お前の心の中に、疚しいモノを抱えているからだろう。その醜い顔、二度と私の前で晒すな。いいな、再び同じことを行なったら、お前のような者でもどうなるかわかっているだろう」
温厚の印象が強いフィル王子の変貌に、周囲で戦いを見守っていた神官達が一斉に身震いする。その姿は明らかに別人そのもので、同時にフィル王子がダレスをどのように見ているのかを明確にする。
今、返答を誤れば――
そう、誰もが思う。
一応セインは見習い神官なので道理を弁えていると思いたいものだが、いかんせん彼は性欲を中心に物事考えているので返答を誤る可能性が高い。それに空気を読むのが上手い方ではないので、失言も多い。
多くの神官が顔を引き攣らせながら、セインが返答を誤らないことを心の中で願う。勿論、相手が同士ということも関係しているのが、彼等が一番恐れているのはフィル王子の心情。これひとつで、どうにでもなってしまうのだから。幸い、セインは返答を誤らなかった。
流石の馬鹿の見習い馬鹿神官も自分の命の方を大事に思っているらしく、それに今回だけは上手く空気を読むことができたのか、彼はフィル王子が望む回答を恐る恐る返し難を逃れた。
向けられていた剣が鞘に納められ、カチっという金属がかち合う音が鳴る。それに合わせたかのようにセインが後方に倒れてしまい、口を半開きにした状態で意識を別の世界へ飛ばす。また緊張の糸が切れたせいかそれとも二度も訪れた恐怖に身体が参っていたのか、情けないことに失禁していた。
無様な姿を晒す無礼者にフィル王子はフッと鼻で笑うと、神官達にセインを連れて行くように命令を下す。彼が失禁していると付け加えて。セインが王子の前で最大級の醜態を晒してしまったことに、誰もが愕然となってしまう。中には手で顔を覆い、呆れている者もいた。
しかし、唯一周囲と異なる反応を見せていたのはフィーナ。彼女はダレスの大量出血を目の当たりにしたことにより採血の光景を思い出したのか、顔を青褪めさせ別の意味で身体を小刻みに震わしている。また自分の採血時の状況を思い出してしまったのか、頬を涙が伝う。
ふと、どうすればいいかわからないフィーナは周囲に視線を走らせていると、此方を見ているフィル王子の目線が合う。身体を震わせながら大量の涙を浮かべ目を赤くしているフィーナに居た堪れなくなったのかフィル王子は哀れみに溢れた視線を送ると、そっと唇を動かす。