新緑の癒し手

 いや、知らないからこそ本音と建前を使わず、感情のままに相手にぶつけていく。それがダレスに対しての神官の振る舞いであり、巫女フィーナの軟禁に繋がっているとヘルバは彼等の行動を読む。

 また、日頃あれこれと面倒ごとを押し付けている癖に、ダレスの不在を何とも思っていないのは彼等らしい。寧ろ、厄介者が神殿から去って清々しているのか。それなら最初から追い出してしまえばいいものだが、彼等の言動が全くといっていいほど一致しないことにヘルバは眉を顰めた。

 だが、自分達より下にいる者を作り出し、それを罵り嘲笑うだけしかできない者に常識を求めるのは不可能で、現にそれが可能であったらダレスの待遇はもっといいものになっている。

「どうしました?」

「いや、ダレスの考えが当たったと思って。これだけ正確に当たるのは、あいつの行動が単純なのか」

「それは?」

「貴女を一人にするのは危険と、ダレスが言っていた。案の定、ダレスが姿を消したと同時に、奴が来た。まあ、根が馬鹿なので行動が読むのが楽……というのが、あいつのいいところか」

 ヘルバが言う「馬鹿」というのは、勿論セインを示す。ダレスはフィーナを我が物としようとしているセインにとって鬱陶しい障害であったが、その障害であるダレスが神殿から忽然と姿を消した。

 我が身に舞い降りた絶好のチャンスと捉えたセインはフィーナのもとを訪ねたが、彼女を守るように立ち塞がったのは見慣れぬ存在。突然の有翼人の登場にセインは勇気を振り絞り不審者を威圧していくが、最後まで言葉を発する前に床に崩れ落ちヘルバに無様ともいえる姿を晒す。

 ヘルバにとってセインは敬愛の念を抱く相手ではなく、それに同族ではないので容赦はしない。それを表すかのように彼にお見舞いしたのは、腹に向かっての蹴り攻撃。まさかいきなり攻撃を仕掛けられるとは思ってもみなかったらしく、セインは直に攻撃を受けてしまう。

 結果、セインはフィーナと対面する前にヘルバによって撃退された。今、彼は廊下で見っとも無い姿で伸びているが、復活と同時に何を言っているかわからない。また、部屋への不法侵入も可能性として考えられる。しかし、廊下に響き渡る複数の神官の声でその心配がないと確信する。

 どうやら、セインを発見した者達が彼の自室へ運んで行くのだろう。誰もが厄介ごとを増やすセインに呆れているらしく、彼に同情心を抱くものは誰一人としていない状況であった。だからといって一応自分達の仲間なので、見捨てることはせず救いの手を差し伸べる。
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