新緑の癒し手

 分かり合える者が、何も言わずに姿を消してしまう。それは彼女にとって切な過ぎるものであったが、愚痴ひとつ言わないのはフィーナの優しさと彼の立ち位置を理解しているからか。

 ダレスはフィーナを支えているが、逆にフィーナもダレスを支えているといってもいい。これだけ心配してくれる者に何も言わず姿を消したことは、全面的にダレスの方が悪いとヘルバは結論付ける。そして親友に文句を言われようが、絶対に彼女を連れて行き愚痴ひとつ言ってやろうと決意する。

「神官には内緒に」

「わかっています」

「で、行く日は堂々と出て行くので、出掛けることは神官に事前に言っておいた方が面倒がない」

「内緒……ではないのですか? てっきり私はそうだと思いまして……ちょっと緊張していました」

「別に、逃亡するわけじゃない。それに、コソコソと出歩く方が逆にあいつ等に怪しまれてしまう」

「た、確かに」

「だから、言っておいた方がいい。だけど、ダレスの居場所等は言うと面倒になってしまう」

「わ、わかりました」

 といって、彼等が素直に外出許可をおろしてくれるかどうか怪しい。ましてやフィーナと共に外出するのは人間ではなく、自分達が見下している者。有翼人が勝手に巫女を連れ出したととやかく言ってくるだろうが、好き勝手に喚いていろというのがヘルバの言い分だ。

 フィーナは道具ではなく、感情を持った人間である。何処かへ赴き誰かと話すのは個人の自由であり、それを妨げる権利を彼等は持っていない。それどころか彼女を軟禁している方が問題あるとヘルバは指摘し、時に好きに振舞ってもいいのではないかと笑いながら言う。

「はい」

「いい返事だ」

 ダレス同様、ヘルバも高い洞察力を持ち合わせている。それにより互いに交わした会話の中からフィーナも神官に嫌悪感を抱いていると知り、巫女が置かれている状況を理解する。

 ふと、ダレスとの会話を思い出す。人間は高い知識を有しているが、それに伴う理性が欠如している。人間にとって巫女の血は強大すぎて、手に余る代物といっていい。御することができない力は悲劇を招き、同時に多くの敵を作っていることを彼等は知っているのか。
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