新緑の癒し手
ダレスの口から彼の血の呪縛を聞いた時から、彼と一緒になることができないとわかっていた。わかっていながら現実を受け入れたくなかった自分がいたのだと、フィーナは思う。
だからといってこのまま相手への気持ちを心の奥底へ封じ、神官が選んだ相手と一生添い遂げる気持ちにはならない。ましてや、伴侶として選ばれる可能性が高いのはあのセイン。いやらしい視線を向けてきたセインを思い出すと身体が震え、彼と一緒になることを拒む。
目の前にいる人物を愛しているのは間違いなく、相手を想えば想うほど止め処なく涙が溢れ顔を濡らす。そして何度も呟くのは「貴方以外の人物は嫌」という彼女の懇願であった。
それが自分勝手の意見だとフィーナは理解していたが、あのセインと一緒にさせられるのではないかと思うと恐怖心が増し、共になれば不幸が待っているとフィーナは怯え続ける。
嗚咽を漏らしながら自分の気持ちを訴え、尚且つ相手の服を掴んで離さないフィーナの姿は、ダレスにとって痛々しいものであった。また、彼女の言動のひとつひとつが彼の心情を幾重にも刺激し、何も伝えようとしない自分が悪人になっているのではないかと気付く。
掻き毟られるのではないかという苦しみによってダレスは、自身がフィーナをどのように思っているのかわかると、そっと目元を濡らす涙を拭うとポツリポツリと心内を話していく。
「この血を厄介と思ったが、それは仕方がないと諦めていた。しかし、貴女と会ってから違った」
血の呪縛は一生付き合っていかなければいけない体質なので、誰かを愛しその人物と添い遂げることはしないとダレスは考えていた。しかしフィーナと過ごしているうちに封じている感情がざわめきだし、感情の起伏によって変貌する肉体を疎ましくなってきたとダレスは話す。
血の呪縛さえなければ。
どうして、この肉体で産まれた。
父と母が愛し合わなければ――
彼の口から発せられるのは、自分を産んだ両親への恨み。今まで決して両親の悪口を言わなかったダレスであったが、血の影響で好意を抱いた相手と共になれないことに絶望感が支配する。
血が憎い。運命さえも支配する血が疎ましい。自分自身の生い立ちを呪うかのような発言を繰り返すダレスに、フィーナの身体が過敏に反応を示し彼の顔を凝視する。いや、それ以上に彼女を驚愕させたのは、竜の鋭い爪で自分自身の肉体を傷付けているダレスであった。