新緑の癒し手
「ダレス」
「やはり、このように……」
「仕方ない」
ダレスの名を呼び言葉を掛けてきたのはフィル王子で、砕けた女神の像を前にして平然とした態度を取り続けている。王子が取り乱したら示しがつかないと考えているのか、精神面が強い。だが、一人でいることが辛かったのだろう、ダレスが来てくれたことが嬉しいと話す。
「信仰は、終わりか」
「そうでしょう。このように像は砕けてしまったのですから、信仰を続ける理由はないでしょう」
「あと、血か……」
「完全に、失われました」
「二人の髪の色を見ればわかる」
本来の髪の色に戻った二人を見たら大抵の者は動揺を隠し切れずショックを受けるが、現実を受け入れていたフィル王子は、意外にすんなりと二人の髪の色を受け入れている。それどころか身体から女神の力が失われて良かったのではないかと、そのような言い方をしていた。
「これから、どうする」
「俺は、竜の村に……」
「私は、人間の世界には……」
「確かに血の力を失った今、人間の世界で生きていくことは難しい。何処か、行くところは?」
「ダレスの側に」
「そうか」
フィル王子もフィーナがダレスの側にいることが最善の選択と考えられるのだろう、頷きいい選択をしたと評する。それ以上に竜がフィーナを受け入れてくれたことに、感謝しきれない。本当なら受け入れるどころか邪険に扱い、追い出されても仕方がない立場にある。
器の大きい竜の気遣いに、フィル王子はダレスに向かい頭を垂れる。フィル王子の反応にダレスは頭を振ると、村の者達がフィーナを気に入っているから村の滞在を望んだと伝える。いや、それ以上にフィーナを愛しているから手放したくない――それが本音といっていい。
ダレスの話に、フィル王子は女神の像で悲しみに暮れている民に視線を向ける。このようにならなければ、二人が結ばれることはなかった。人間生活の根底を揺るがすほどの大きな犠牲を払ったといえなくもないが、だからといって二人に冷たい言葉を浴びせる理由にならない。