チョコレートコスモス・アイズ
昼休みになった。冷えた弁当を一人で食べている涼の目の前に、女子学生の短いスカートと脚が映った。涼には、それが誰であるかすぐにわかったが、敢えて無視して、卵焼きを箸でつまんで口の中に入れ、噛み続けた。


「ちょっと、いいのかな?情報を手に入れたのに、聞きたくないのかな?」


「高柳。今、昼飯中。また後にしてくれよ。どうせこの間みたいに、大した情報じゃないんだろう?あの時は、吉川先生が日曜日に必ず立ち寄るカフェっていうのを聞いたけど、いくら待っても来なかったぞ」


「あら、そう?まあ、間違いもたまには、ね」


高柳絵美(たかやなぎ・えみ)は、いたずらっぽく笑った。ぶかぶかのアイボリーのベストをブレザーの下に着込み、下着が拝見できそうに短いスカートで、今時の女子高生のスタイルを決めている。しかし、そのほどよく細い脚を包む靴下の下に、ブーツの履き過ぎで蒸れた脚が水虫と同居していることは、涼だけしか知らない。この絵美は、涼のことが好きで、「つきまとって」いるのであるが、自分のことを知ってもらいたいためか、水虫のことまで涼に教えるのであった。おかげで、絵美については、本意に背いてキッカのことより知る羽目になっていた。


絵美は、涼がキッカに片思いをしていることを知っている。しかし、そのことでキッカに嫉妬するわけでもなく、彼女に言わせれば、すぐに涼と両思いになるより、刺激的で楽しいらしい。そして、彼女はクラス一の情報通で、キッカの情報も手に入れてくれる。そしてその情報と引き換えに、涼は絵美と弁当を食べたり、一緒に下校したりと戦略的パートナーシップの関係を結んでいた。

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