チョコレートコスモス・アイズ
「国武くん。聞いていますか?」

気づけば、キッカの繊細な、しかしのびやかな張りのある声が涼を呼んでいた。何度も名前を呼ばれていたらしく、周りのクラスメートたちはクスクスと笑ったり、冷たい視線を投げかけている。


そうした彼らの反応に、涼もまた過敏に反応してしまう。自分がからかわれているように思われてならないのだ。そのことはキッカが知っていて、できるだけ配慮して、クラスメートたちの反応が涼を刺激しないようにしてくれていた。


「すみません、聞いていなかったです」


涼は素直に謝った。キッカは、もう、と言うようにちょっとため息をついて、自分より背の高い涼を見上げた。キッカの生徒を思う優しさを、鏡のように映し出すチョコレートコスモスの瞳が、うるんで揺れた。虹彩が、コスモスの花芯のようにきらりと輝いた。


涼は、その目の艶っぽさに思わずどきりとした。


「今度はちゃんと聞いていてくださいね。明日、古典単語のテストをしますから、勉強してくること。まだ一年生だからといって、受験勉強をおろそかにしてはいけませんよ。毎日コツコツ、が肝要肝要」


国語教師らしく、キッカは自分の言葉にリズムをつけて弾むように言った。涼は、黙って聞いていたが、受験のことはどうでもよかった。ただ、キッカといたい―留年のことも、涼は真面目に考え始めていた。
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