檻の中



 鉛のように重い身体がフローリングの床に沈んでいく感覚に陥りながら、わたしはいつの間にか眠りの世界に誘われていった。


 そして奇妙な夢を見た。



 檻の中にいる裕太が必死に手を伸ばしている。


 わたしは「ごめんね……ごめんね」と泣きながら、目の前にある料理の山を次々と平らげた。


 満腹のはずなのに、餓死してしまうのではないかと言う恐怖感に怯えていた。


 飲まず食わずの裕太を差し置いて、自分だけがどんどん肥えていく。


 それでも、わたしは病的に食べ続けた。


 生きるため……生きるためなんだ。


 血走った目をしながら、手掴みで料理を口に詰め込んでいく。


 そんなわたしを裕太は悲しげに見つめていた。


 風船のように身体が膨らんでいくのを感じながらも、飢え死にするかと思うと食べることを止められなかった。



 誰か止めて……お願い!



 心が悲鳴を上げていた。


 痩せ細った裕太が骸骨になった瞬間、わたしの身体はとうとう破裂した。



 “ゲームオーバー”



 機械的な女性の明るい声が響き渡る。


 イシザキが笑いながら、バラバラになったわたしの身体を拾い集めていた。



『ロミオとジュリエットの実験は終わりだ。楽しませてくれたな、ジュリエット……』




 深い意識の谷底で、わたしは覚醒しようと必死にもがいていた。



「ハァッ……!」


 水中から顔を出したときのように喘ぎながら、夢の世界から生還を果たした。


 眠る前よりも身体が重く、動悸に襲われる。


 何だったの、今の夢……。


 わたしは額に浮かんだ汗を拭いながら、暗闇の中で荒い呼吸を繰り返した。


 夢の中の出来事とは言え、裕太を見捨てた自分にショックを受けた。



 あれがわたしの本当の姿なんだ……。


 強欲で臆病で、薄情な人でなし。
 


 電気が点いてからも、わたしは起き上がって食べ物を口にする気にはなれなかった。






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