檻の中



 仕事とはやはり、源ヒカルの言っていた“殺し”だろうか……。


 イシザキは自分のことを全く話さないから、謎は深まるばかりだった。


 別に知ったところで、わたしが解放されるわけではないだろうけど。



「──終わったか。そのまま座ってろ」


 課題を終えて伸びをするわたしを見て、イシザキがそう言った。


 モニター画面が明るくなり、裕太の姿が映し出された。



「……あっ!」


 前に見たときよりさらに筋肉質になっている裕太を見て、わたしは思わず声を上げた。


 相変わらず、トレーニングに余念がないようだ。


 腹筋と背筋を黙々とこなし、懸垂をして……。


 本当にあれは裕太なのだろうか?


 プロレスラーのようになってしまうのではないかと、わたしは少し不安になった。


 だけど……どんな姿になっても、裕太は裕太だ。


 生きていてくれるだけで嬉しい。



 トレーニングを終えた裕太がフーッと息を吐き、マットレスに足を投げ出した。


 額に汗が光り、目にかかった前髪を気だるそうに掻きあげる。


 水を飲むたびに喉仏が上下するのを見ながら、わたしは裕太がどんどん遠い存在になっていくのを感じた。



「裕太……。裕太、わたしだよ。聞こえる?」


 焦れったくなり、思いきって声をかけた。


 すると、顔を伏せていた裕太が反応を見せた。


 画面越しに目が合った途端、心臓がドクンと音を立てた。


 なんて冷たい目……。


 今まで見たことのない表情に怖じ気づきそうになりながらも、わたしは勇気を出した。



「ゆ、裕太。元気そうだね……」


 躊躇いがちに愛想笑いを浮かべて言った。


 まさか、裕太に話しかけることに気を遣う日が来るとは思わなかった。



「……」


 無言で顔を背ける裕太の態度に、胸がチクリと痛んだ。


 どうして……?



「裕太。わ、わたしね──」


「うるさい。二度と俺に話しかけるな!」


「えっ……」


 裕太が声を荒げて睨みつけてくる。


 わたしはショックで呆然として、全身から血の気が引いていく感覚に襲われた。





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