ma cherie *マシェリ*
“効果絶大”か……。

どんな魔法を使ったか知らないけど……

オレはまんまと彼女の術中にハマってしまった。



なぜかふいに、さっき公園で見た月を思い返していた。

薄雲の向こうにぼんやりと浮かんでいた半月は輪郭がはっきりせず、いつもより大きく見えた。

そんな曖昧な感じがいい。

世の中は必ずしも黒でなくてはならないわけでも、ましてや白でなければならないわけでもない。


今ここにいるのが、男だとか女だとか……そんなこともたいした問題じゃないような気さえする。

ただ、信じられるものがあるとするなら、自分の目で見て、感じたものだけ。

大切なのはそんな気持ちに素直に向き合うこと。

それさえわかってりゃ、いいんじゃない?


グラスの中のウォッカを飲み干すと、まだ真っ赤な顔をしているサキと目が合った。

軽く彼女の頬にキスをした。

何もかも酒のせいにしてしまおう。


「あー! またいちゃついてるし。うっとおしい! 見てるだけで暑くなるわ」


望月がTシャツの襟をひっぱって、パタパタと手で扇いだ。


確かに暑い。

さっきの雨のせいで湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。

もう夏が近いのかな……。


だけどエアコンなんていらない。

なぜだかもうしばらくこの空気に酔いしれていたい気分だった。


きっとこの日を忘れないと思う。

今夜と同じ月を見るたびに思い出すだろう。


恥ずかしそうに俯くキミの横顔と


バカみたいにくだらない話をしながら、一晩中飲み明かした、この不思議な夜のことを。



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