ちょっと黙って心臓
「あのさあ、」



その声がなんだかちょっとだけ怒りを含んでいるような気がして、びくっと肩がはねた。

おそるおそる顔を上げると、目の前の花岡くんはどこか呆れた表情で、腕を組んで仁王立ちしていて。



「何それ。俺、サトコさんに彼女いるとかいう話したことありましたっけ?」

「な、ないけど……」

「彼女なんていませんし。つーか俺のこと、草食系とか思ってる節があるのもムカつくし」

「は、花岡く、」

「……わかんないかなぁ」



言った後、花岡くんの右手がこちらに向かって伸ばされる。

驚いた私は、思わずきつく目をつぶった。

そうして花岡くんの手は、予想外にも私の鼻をぎゅっとつまんで。



「いっ、」

「──俺、今までにも結構サトコさんのこと口説いてんですけど。そういうの、全部気付いてなかったんですかね」

「………!!」



反射的に開いた瞳が映したのは、若干不機嫌そうな顔をした花岡くんのドアップ。

て、いうか……っ! 今花岡くん、『口説いて』って言った?!

え!? そそそそれって、私のことを??!


今さっき言われたセリフと、至近距離にある彼のキレーな顔。その両方が刺激になって、かーっと一気に頬が熱くなった。

そんな私を見て、一瞬きょとんと目を瞬かせたけれど。すぐに花岡くんが、にやりと笑う。



「あー、なんだ。全然意識されてないってことは、なかったか」

「なっ、ななななにを……っ」

「まあ、別にあせってないし。こっからじわじわ、落としていくし」

「?!?!」



鼻から移動した手がするりと頬を撫でて、私の頭はもうキャパオーバーだ。

魚みたいに口をパクパクさせる私に満足そうに笑って、花岡くんが上半身を起こした。



「とりあえず、来週の日曜日」

「へっ、」

「その日休業日なんで。サトコさん、空けといてくださいね」

「?!」

「あ、ちゃんと勝負下着つけて来てくださいよ。まあ、準備されてない無防備な普段使いっぽいのも、それはそれでそそりますけど」

「?!?!」



今までの彼は、草食系っぽくて。

だけど今目の前にいる彼は、がっつり肉食系。


それでもどっちの彼にもときめいてしまう私は、すでに重症なのでしょうか……。









/END
2014/11/03
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