ちょっと黙って心臓
ていうか、彼の口から『エロいこと』っていう単語が出てきたこと自体、驚きで。

花岡くんは去年大学を卒業してるから、今23歳。私は社会人4年目で、26歳。

彼のまわりには、きっと若くてかわいい子がたくさんいるんだから……私なんて、きっとアウトオブ眼中に違いないんだ。



「………」



考えながら、自然とうつむいてしまっていたことに気が付いて、ハッとする。

な、なに考えてんの、私。花岡くんが私のこと眼中になくたって、別に関係ないじゃない。

……そういえば。花岡くんって、彼女とかいないんだろうか。勝手に草食系のレッテル貼ってはいるけど、仕事にマジメだし、顔だっていいんだもん。いない方が、おかしいよね。



「……あの、サトコさ」

「ごっ、ごめん花岡くん、さっきのやっぱナシ!」

「は?」



突然の私の言葉に、彼が眉を寄せる。

ガチャン、とレジを閉めて、私の目の前までやって来た。



「さっきのって?」

「……花岡くんの家、行きたいってやつ。ごめん私、気ー付かなくて……花岡くんにも、彼女とかすきな子とか、いるよね。私なんかが家に行ったりしたら、そういう人に、悪いもんね」



視線は合わせないまま、一気にまくしたてる。

な……なにこれ。なんで私、こんなあせってんの。

なんで私、こんな情けない気持ちになってるの?



「………」



そんな私を、花岡くんはじっと見つめていたようだけど。

やがてはーっと、深くため息をついた。
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