ポケットにキミの手を



「え?」


柔らかい布団を引っ張りあげながら、菫はきょとんとした顔で俺を見上げた。

薄明るいナイトライトに照らされた彼女の顔はまだどこか火照っているようにも見える。
俺は彼女の髪を指に絡ませて、そっと唇を当てる。シャンプーの匂いがふわりと広がって、彼女の香りと融和する。
菫はおずおずと手を伸ばし、髪で遊ぶ俺の頬を触った。


「またする?」

「ええ? ち、違くて。あの。もう一度言ってください」


週末の深夜。
思うさま菫を堪能した後で「親に会ってほしい」と言った俺に、彼女は驚いたようだ。


「プロポーズしたら次はそれじゃない? 俺も菫のご両親に挨拶したいし、俺の親にも会って欲しい」

「でも、私の実家は群馬ですので」

「群馬も別に日帰りできるけどね。まあでも折角だから観光がてら、菫の家は週末にでも行こう。うちはそんなに遠くないから、平日の夜でもいいし」

「私、司さんのご両親に会うんですか?」


菫が妙に萎縮する。


「嫌?」

「いえ。……でも緊張します。私なんかで大丈夫でしょうか」

「また言った。なんかは止めろって言ったよね」

「きゃっ」


かぶさるようにして押し倒して、上胸の山裾を思い切り吸う。
お仕置きの赤い花は、菫が自虐的なことをいうとつけるようにしている。
しょっちゅうめげるので、彼女の体にはいつも二箇所くらいはついている。


「やだ、これちょっと見えそうな位置じゃないですか?」

「大丈夫だよ。そこまで胸元の空いた服着ないでしょ。そう思うならつけられるようなこと言わなきゃいいのに。それともわざと?」

「司さんのイジワル」

「イジワルだよ。菫見てると苛めたくなる」


クスリと笑って、また彼女の体をくすぐる。
大事な話をしなきゃいけないのに、耳に届く彼女の声に俺の意識はすっかり奪われてしまった。




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