ポケットにキミの手を


 しかし、その後なかなか両親の予定が空くことは無かった。何度か電話をしても、俺と親父の予定が合わない。しびれを切らした俺は、先に菫の実家を訪れることにした。

 群馬まで行くならと、ホテルを予約して一泊旅行を計画する。菫は「実家に泊まってもらっても」と言ったが、いきなり宿泊までするのは気が引ける。車で移動することにし、初日はリラックスして旅行を楽しみ、日曜の午前中に菫の家に挨拶に行こうと提案すると、菫も嬉しそうに笑った。


「電話したらびっくりしていました。お姉ちゃんが興奮しちゃってて、司さんに失礼なことしたらどうしよう」

「菫にはお姉さんだけ?」

「三姉妹の真ん中なんです。実家には姉夫婦が同居していて、妹も近くで一人暮らししています」

「菫だけが遠いんだ?」


菫の部屋には家族写真というものがない。それに、家族の話題も結婚の話をするまでは出なかった。あまり親密な家族関係じゃないんだろうなというのは、大方予想していたが、菫はバツが悪そうな顔をして沈んでしまった。


「……離れたかったんです。家にいるとどうしても比べられるので。姉も妹も溌溂としていて人気者だから」

「そっか」


俺とは違う家庭環境。だけど根底にあるものは似ているような気もする。
彼女の頭を撫で、敢えて軽い調子で話す。


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