ポケットにキミの手を


 帰ってきてすぐ、俺は結婚指輪の注文を出した。


「でもまだ、司さんのご両親にご報告してないのに」


菫は伺うように俺を見るけれど、俺はもう待てない。菫を安心させるものを一つでも多く増やしたくて。


「あっちの都合がつかないのが悪いんだろ。もし反対されても結婚するからいいんだ」

「……でも」

「うちの親に、……特に母親になにか言われても絶対気にするなよ。変なプライドの持ち主だから」


念を押すと不安そうな顔をする。
心配になる部分はあるけど、結婚するにはクリアしなければならない問題もある。


「一つ頼みがあるんだけど」

「はい?」

「俺の両親が気に入らなくても、俺のことは嫌いになるなよ?」


菫は目をぱちくりとさせ、その後ふわりと笑った。


「それは絶対ないです」

「本当?」

「神様に誓ってもいいです」

「じゃあ、今日の俺を労ってよ」


そのまま、疲れた体をベッドに横たえて、彼女の首筋にキスを落とす。


「司さん、私汗かいたりしてるからっ」

「別にいいよ」

「明日仕事だし」

「それは俺も一緒。結構緊張したんだから。労ってもらう資格はあると思う」

「それはっ」


そうなんですが。

小さく続けられたつぶやきはやがて吐息へと変わっていく。
緊張の一日の最後を、甘い時間で彩ろう。



【fin.】


< 39 / 69 >

この作品をシェア

pagetop