ポケットにキミの手を
「司さん? トイレですか?」
キョトンと見つめる彼女の瞳を、見つめ返す。
「菫の王子は魔法使いも兼ねてるから遅くなったんだよ」
「え?」
「王子に見初められたシンデレラは末永く幸せに暮らすんだろ? 菫もこれからは俺と幸せに暮らせばいい」
「司さん」
「しばらく子供はいらない。俺が君を独り占めする。菫が、自分のことを「なんか」って思えなくなるまで。俺が君を世界で一番大事にする」
ポロリと伝っていくのは彼女の涙。
「つ、司さん」
「三姉妹の真ん中に産まれたのは不運だったな。でも、もう自分の気持ち殺すことはない。あやめさんよりも菫のほうが一緒にいて落ち着けるし、楓ちゃんより菫のほうがずっと優しい。……俺には菫が一番だ」
「……どうして、司さんはそんなに私に優しんですか」
止まらなくなった涙が、菫を眩しいくらいに光らせる。
愛してあげたらこんなに可愛い君なのに。
ご両親はきっと損をしている。菫のこんな姿を見れないんだから。
「好きだからだよ」
「わ、私」
「世界で一番君を大事にしたいって思うから」
細い体が抱きついてきて、俺は邪魔をしているシートベルトを外す。
俺の言葉にこんなに素直に喜ぶ君に、湧き上がるのは多大なる愛しさで。
「俺は、君を愛しているんだ」
どこまでが好きでどこからが愛かなんて、測り方は知らないけれど、この気持ちがきっとそうだと思った。