ポケットにキミの手を


「……実際の結婚式は多分二人だけでってわけに行かないと思うんだ。俺はそんなに派手にするつもりは無いけど、実際は親が結構口挟んでくると思うし、菫のご両親にだって、菫の一番きれいな姿を見せたい」

「司さん?」

「だからその前に、ちゃんと君に誓っておく」


真面目な顔で少し照れたように彼は微笑み、ポケットから以前貰ったものよりも大きなケースを取り出した。

中にはお揃いの二つの指輪がある。
あなたと私で一緒に考えたデザイン通りの。

司さんはそのうちの小さい方をとって、私に見せた。


「俺は、菫を生涯愛することを誓います」


牧師に促されるような言葉を自分で告げて、彼は私の答えを待つ。

思えば初めて出会った時も、こうして向かい合った気がする。

急におごそかな気分になって、私もケースの中から彼用の指輪をとった。


「……私も、一生あなたを愛します」


病めるときも健やかなる時も。

心のなかで告げながら、指輪を互いにはめ合う。


そして誓いのキスをするために、どちらからとも無く唇を寄せた。




【fin.】
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