りんどう珈琲丸
沈黙が2人の間を通りすぎる。まるで世界中から音が消えてしまったみたいに、わたしにはなにも聞こえない。わたしはちょっとしたパニックのような状態だった。さっきまでのお店のざわめきも、町の喧噪も、ぜんぶがわたしから遠いところにあるみたいだ。それはぜんぶわたしから離れていってしまった。わたしはどこにいるんだろう?
「誰も…マスターの心の中に…入れなかった…」
「わからないわ。でも少なくともわたしにはそういう風に思えた。もしかしたらそれはわたしがあの人のことを好きだったからそう思うのかもしれない」
「じゃあどうして、どうして美篶さんは今までマスターに会いに来なかったんですか?」
「あの人の心の中に入れないことが、辛かったからよ」
「マスターの心の中…」
「そう。彼はとても優しいわ。わたしが会いにいったら、きっと優しく迎えてくれる。あんなふうな性格だから言葉は少ないけど、彼はわたしを受け入れてくれるのはわかってた。でもね、受け入れられることと、愛されることは違うわ。それは優しさであって愛じゃないの。わたしはそれが辛かったの」
美篶さんの頬を涙が一筋だけつたう。わたしは今はっきりと思う。わたしにできないことを、美篶さんにしてほしいと思う。わたしだってマスターのことが好きだ。
「でも時間は人を変えます」
「柊ちゃん…」
「今のマスターは、美篶さんが別れたあとのマスターから3年もたっています。性格はたぶんそんなに変わってなくて今でもあんまりしゃべらないけど、マスターだってきっと変わります。美篶さん、マスターに会いにきてください。来週末のクリスマスイブに、マスターに会いにきてください。マスターはお店にいますから」
「…わからないわ。わたしにはわからない」
「ごめんなさい。勝手なことばかり言って。でもそうしてほしいんです」
「ううん。そんなことない。あのね、柊ちゃん」
「はい」
「わたしははじめて柊ちゃんに会ったあの前の晩に、彼からプロポーズされたの」
「お返事したんですか?」
「ううん。返事はできなかったわ。わたしは本当にいろいろなことがわからなくなっちゃったの。だからあの日、彼に会いにいったのだと思う」
「ごめんなさい。わたしは美篶さんの気持ちをかきまわしているだけなんでしょうか?」
「誰も…マスターの心の中に…入れなかった…」
「わからないわ。でも少なくともわたしにはそういう風に思えた。もしかしたらそれはわたしがあの人のことを好きだったからそう思うのかもしれない」
「じゃあどうして、どうして美篶さんは今までマスターに会いに来なかったんですか?」
「あの人の心の中に入れないことが、辛かったからよ」
「マスターの心の中…」
「そう。彼はとても優しいわ。わたしが会いにいったら、きっと優しく迎えてくれる。あんなふうな性格だから言葉は少ないけど、彼はわたしを受け入れてくれるのはわかってた。でもね、受け入れられることと、愛されることは違うわ。それは優しさであって愛じゃないの。わたしはそれが辛かったの」
美篶さんの頬を涙が一筋だけつたう。わたしは今はっきりと思う。わたしにできないことを、美篶さんにしてほしいと思う。わたしだってマスターのことが好きだ。
「でも時間は人を変えます」
「柊ちゃん…」
「今のマスターは、美篶さんが別れたあとのマスターから3年もたっています。性格はたぶんそんなに変わってなくて今でもあんまりしゃべらないけど、マスターだってきっと変わります。美篶さん、マスターに会いにきてください。来週末のクリスマスイブに、マスターに会いにきてください。マスターはお店にいますから」
「…わからないわ。わたしにはわからない」
「ごめんなさい。勝手なことばかり言って。でもそうしてほしいんです」
「ううん。そんなことない。あのね、柊ちゃん」
「はい」
「わたしははじめて柊ちゃんに会ったあの前の晩に、彼からプロポーズされたの」
「お返事したんですか?」
「ううん。返事はできなかったわ。わたしは本当にいろいろなことがわからなくなっちゃったの。だからあの日、彼に会いにいったのだと思う」
「ごめんなさい。わたしは美篶さんの気持ちをかきまわしているだけなんでしょうか?」