天使の贈り物 




「えっと……。
 ご迷惑かけてすいませんでした」


ペコリと頭を下げた私に、
見知らぬ顔の人は
目で笑いかけた。


「あっ、彩巴。

 この人がねー、
 翔琉(かける)。

 アンタの発作、ケアしてくれた人」


そう言って紹介された、
翔琉さんは、
成実の後ろで静かに会釈した。


「翔琉、彩巴ちゃんは?」

「もう大丈夫」

「少しあったかいもの飲む?」


コクリと頷いた私の前に差し出されたのは
ミルクがたっぷりと入ったココア。


口の中で甘く広がっていく度に
少しずつ、緊張が解れていくようで。



「彩巴ちゃん……、
 大丈夫?」



大分、落ち着いた頃
最後に部屋に姿を見せたのは
今、一番逢いたくて、
一番逢いたくない人。


言葉にすることが出来ずに、
その場で頷く。



ベッドサイドに近づいてきて、
そーすけさんは、何も言わず
黙って私の髪を触れて、
部屋を出て行った。




その後ろ姿は、
やはり……寂しそうで。





「おいっ、奏介。
 悪い、俺、奏介の方に居るわ」



そう言って、
慌てて飛び出した煌太さん。

その後ろには、
翔琉さんが続いていく。





部屋に残されたのは、
成実と私。



使わせて貰ってるベッドの上に少し立ち上がって、
掛布団を整えると、
ゆっくりとまたベッドの上に座り込む。

私の体重によって、
フィットするように沈むマット。


その場所に座って……
今まで向けることが
出来なかった部屋の中に視線を移動させる。


真っ黒の長いテーブルには、
デスクトップのPCと、
MIDIキーボード。

本棚には……男の子が読みそうな
不良系のコミックがぎっしりと並んでいて
その隣には、
車かバイクの鍵が無造作に置かれてた。


その隣には……
ガラス皿に残る、蝋燭の溶けた後。


ガラス皿の先には……
成実と、もう一人……
知らない男の人が一緒に映ってた。
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