天使の贈り物 




「もしもし」

「もしもし彩巴?

 何してるの?」

「……家に居るよ……」

「ったく、
 家に居るよじゃないでしょ。
 心配させて。

 今、居酒屋の前に
 煌太を迎えに行かせたから
 それに黙って乗りな。

 奏介が……倒れて、
 翔琉の病院にいるからさ。




電話の向こうで、
時折、くっきりと聞こえてた赤ちゃんの声が
遠のいていく。




そーすけさんが倒れた?





それだけで、
体が震えてく。





「彩巴?
 彩巴?

 どうしたの?
 アンタ、なんか言いなさいよ。

 こらっ!!
 
 彩巴、アンタ何時まで見えない
 美空に怯えてるのよ。」

 今、奏介を支えてんのは
 アンタでしょ。

 彩巴っ!!
 
 だったら、
 逃げ出さずに現実と向き合いなよ。

 そうやって、乗り越えて……
 私に夢を見せてよ。

 晴貴の忘れ形見、
 煌貴(こうき)にも
 見せてやりたいんだよ。

 聴かせてやりたいの。

 アンタの父親が追い続けた
 音楽は、こんなにも素敵なんだよってさ。

 だから……
 彩巴も逃げないでよ」






聞こえづらかった声が、
徐々に大きくなって現実に引き戻されていく感覚。



煌貴と名付けられた、
あの日生まれた赤ちゃんが、
成実に抱かれてあやされてる声が聞こえる。


< 72 / 178 >

この作品をシェア

pagetop