天使の贈り物 

14.それでも傍に居たいから



あの決意の日から数週間。

私を取り巻く生活は、
ちょっぴり慌ただしくなった。


学校とバイト。
病院に、悠生さんのお店。

眠る時間を削って、
毎日が疲れてるはずなのに、
それでも楽しくて。


今日もそんな時間を過ごしてる。



「お疲れ様です」

「はいっ。
 お疲れ様、彩巴ちゃん」

「大将、女将さん、
 今日は友達の家で勉強するので
 今から出掛けますね」

「気を付けて行っておいで」



挨拶の後、自室で着替えを済ませて
慌ただしく店の外に出ると、
そこには、成実と煌太さん。
そして……今はぐっすりの煌貴くん。



「はいっ。
 お疲れさん」


車のドアを開けて、
私を優しく迎え入れてくれる
煌太さん。



「お疲れ、彩巴。
 今日もビシバシ行くからねー。

 本気の私を見せてあげるんだから」


なんて言いながら、
助手席から私を振り返る
成実も凄く生き生きとして楽しそうで。



そんなメンバーや成実の表情を見てたら、
そーすけさんにも
もう一度取り戻して欲しいって
思わずにはいられない。



「こんばんはー」


通いなれた悠生さんのお店のドアを潜ると
カウンターから、
グラスに飲み物を入れながら出迎えてくれる。


私のオーダーもばっちり、染みついた悠生さんは
注文する前に、レスカをテーブルの上に置いてくれて
成実や煌太さんのところにもそれぞれの飲み物を手渡す。


「煌太、煌貴頼むよ」


一気にフルーツジュースを飲み干して
息子を煌太さんに預けた、
成実はいつものように
壁際のピアノの方へとスタスタっと歩いて行った。


「今日も何時ものように、
 発声からねー」


手慣れた風に、鍵盤に指を走らせながら
順番に音階を移動させていく。

耳に馴染む音を追いかけるように
必死に辿るのに、
喉につっかえるみたいで、
スコーンと気持ちよく張り出せない。


私の声が弱くなると、
成実が鍵盤を弾きながら手伝ってくれるんだけど
もう、声の出方が全然違って
頑張ろうって思ったのに、
心を遠のきそうだよ。


だけど……遠のくことがないのは、
この夢が私だけじゃなくて、
共同作業だと思ってるから。
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