春に想われ 秋を愛した夏


定時きっかりにPCの電源を落とすと、隣では苦笑い。

「有言実行かよ」
「まーね」

帰る準備をして新井君にまたね。なんて手を上げていたら携帯が鳴った。

塔子かな?

そろそろ居酒屋に顔を出しなさい。なんて言われる頃だろう。

既に居酒屋で冷たいビールを口にしているところを想像しながら、ディスプレイを確認すると春斗からだった。

「もしもし」

フロアを出てエレベーターへ向かいながら通話に出ると、受話器の向こう側が少しガヤガヤとしている。

『あ、香夏子。今大丈夫? 仕事中?』
「平気、平気。今終わって帰るところ」

『よかった。あのさ、これから、ごはん食べにいかない?』
「ご飯? いいけど。塔子も一緒?」

『あ、いや、僕だけなんだけど……』
「そうなんだ。春斗からのお誘いなんて、珍しいね。いいよ」

『じゃあ。下で待ってる』
「え? 下?」

エレベーターで一階へ降りていくと、以前体調が悪くて座り込んだ来客用の椅子に春斗が座っていた。

双子なのだから当然なのだろうけれど、秋斗がそこに居るようで、一瞬その姿にどきりとしてしまう。

なんか、心臓に悪いな。

そんな気持ちは微塵も見せず、ヒールを鳴らしてそばにいく。


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