春に想われ 秋を愛した夏


「同棲したいって持ちかけるのって、束縛の割合が大きいからなんじゃないかな。裏を返せば不安だってことなんだろうけど。好きな子を信用していないわけじゃないけれど、やっぱり会えない間に自分以外の男と会ってるかも、なんて考えて不安になるくらいなら、なるべく一緒にいられる状況を作るほうが安心だしね」

春斗の話を聞きながら、恋愛に不安はつき物だけれど、一緒に暮らすってことをそんな風に考えるのは、ちょっと寂しい気がした。

それは、甘い考えだって言われちゃえばそれまでだけれど。
けど、せっかくなら最初に春斗が言ったみたいに、同じ空間にいられる幸せを感じていたいから同棲をするんだ、っていうほうがいいな。
私は、好きになった相手のことを信じていたいもの。
なんていったら、塔子には、甘い! なんていわれそうだけれど。

「なるほど。束縛かぁ。まぁ、多少の束縛っていうのは、男でも女でもあるものだし、かえってそれがいい刺激にもなったりするよね。けど、あんまり酷いのは勘弁よねぇ」

塔子が、嫌だ嫌だ。というように苦虫を潰したような顔をする。

「野上さんは、束縛。嫌いそうだよね」

春斗が苦笑いをしている。

「塔子は、自由人だからね」

私も肩をすくめる。

「そ。私は、自由人なの。いちいち出かける先やら遊ぶ相手を訊かれるなんてこと、ありえないから」

溜息混じりに言うと、ジョッキのビールを勢いよく空けて、お代わりを注文する。


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