春に想われ 秋を愛した夏
「ところで、塔子は?」
居酒屋で春斗と一緒にいたはずの塔子が、ここへ一緒に来なかったという事は。
「あ、えーと……」
言いよどむ春斗の姿に、ピーンとくる。
「もしかして、まだ一人で飲んでるの?」
「……正解」
今度は、春斗が申し訳なさそうな顔をする。
どうやら、私の心配を春斗にまかせて、自分は欠かせない毎日のアルコールを楽しみ続けているらしい。
【 春斗と一緒に駆けつけてくるという友情はないのか! 】
すぐさま、わざと怒ったようなメールを塔子へ打つと一分と経たずに電話が鳴った。
『どーせ、たいしたことないんでしょ』
開口一番、笑い声と共にそう言われて、反論の余地もない。
仕舞いには、早く元気になって、男の話でもしながらまたビール飲もうよ。と締めくくられた。
電話から漏れ聞こえた塔子のセリフに、春斗がクスクスと笑っている。
「まったく。塔子ってば」
わざと呆れたようにして言うと、野上さん、あれでも結構心配してたんだよ。と春斗がフォローする。
「香夏子は出汁好きだから、出汁の効いたうどんなんか出したら、きっとぺろりと食べるって教えてくれたし」
まさにその通りで、すっかり完食して空になったどんぶりを見て、なんだか気恥ずかしくなる。