春に想われ 秋を愛した夏


「ところで、塔子は?」

居酒屋で春斗と一緒にいたはずの塔子が、ここへ一緒に来なかったという事は。

「あ、えーと……」

言いよどむ春斗の姿に、ピーンとくる。

「もしかして、まだ一人で飲んでるの?」
「……正解」

今度は、春斗が申し訳なさそうな顔をする。

どうやら、私の心配を春斗にまかせて、自分は欠かせない毎日のアルコールを楽しみ続けているらしい。

【 春斗と一緒に駆けつけてくるという友情はないのか! 】

すぐさま、わざと怒ったようなメールを塔子へ打つと一分と経たずに電話が鳴った。

『どーせ、たいしたことないんでしょ』

開口一番、笑い声と共にそう言われて、反論の余地もない。
仕舞いには、早く元気になって、男の話でもしながらまたビール飲もうよ。と締めくくられた。
電話から漏れ聞こえた塔子のセリフに、春斗がクスクスと笑っている。

「まったく。塔子ってば」

わざと呆れたようにして言うと、野上さん、あれでも結構心配してたんだよ。と春斗がフォローする。

「香夏子は出汁好きだから、出汁の効いたうどんなんか出したら、きっとぺろりと食べるって教えてくれたし」

まさにその通りで、すっかり完食して空になったどんぶりを見て、なんだか気恥ずかしくなる。


< 64 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop