春に想われ 秋を愛した夏
ワンフロア下にある倉庫の無機質なドアを開けて、お邪魔しまーす。と奥の社員に声をかける。
「あ、蒼井さん。こっちこっち」
人懐っこく声をかけてきた商品管理の木下君が、さっき問い合わせておいた商品をしっかり自社の紙袋に入れて手渡してくれた。
一応中を確認してみたけれど、ばっちりだ。
「ありがとね」
「どういたしまして。今からですか?」
「うん。ちょっと行ってくる」
気をつけて、と声をかけられ、すぐに上のフロアに戻ってバッグと社用車のキーを手にした。
「青山のスタジオに行ってくる。会議資料の件は、戻ったらすぐにやるって課長に言っといて」
吹き出物とからかってきた新井君に声をかけて、急いで駐車場へと向かった。
社のネームが印刷された車に乗り込んで、紙袋を助手席に置いてエンジンをかける。
エアコンをすぐにつけたけれど、夏の暑さがエアコンの効きを悪くしているのか温風が出てきた。
「ポンコツ?」
社用車に文句を言いつつ、暑さに顔を歪めながら大通りを進んでスタジオへ向かった。
重い鉄の扉を控えめにノックして、紙袋を抱えながら声をかけて中に入る。
車内とは違って、エアコンの効いたスタジオ内に自然と肩の力が抜けていった。
「お疲れ様でーす」
低姿勢で挨拶をしていると、準備中だった数名のスタッフがにこやかに声をかけてきた。
衣装が並ぶそばに行き、うちのスタッフの八木ちゃんに声をかける。
「間に合った?」
「大丈夫です。カメラマンさんの都合でちょっと押してるんです」
大きな声では言えない、と私の耳元でそっと現状を教えてくれた。
「そっか。はい、これ」
「ありがとうございます。急に変更になっちゃって、本当、助かりました」
商品管理部から預かってきた紙袋を手渡し、八木ちゃんと少しばかりの世間話をしてから、少しだけ撮影見学をしてスタジオを後にした。