春に想われ 秋を愛した夏
「何か食べよ……」
独り言を漏らし、無理やり起こした体で冷蔵庫の前まで行った。
中を覗いてから、アルコール以外、ぱっとした物が納まっていないことにまた溜息が零れた。
―――― そんなに溜息ばっかりしていたら、幸せが逃げちゃうじゃん。
大学時代、就職活動がうまくいかずに溜息をつくことが癖のようになっていた私へ、春斗が言った言葉だ。
最近は思い出すことなんてなかったのに、これも秋斗に逢ったからだろうか。
あの二人と逢わなくなって、三年が経とうとしていた。
初めの頃は、どうしているのかとよく気にしていたけれど、今では忙しさも手伝って、思い出すことなどなくなっていたというのに……。
ううん。
違うな。
思い出さなくなっていたのは、春斗のことだけ……。
秋斗の事は、時々思い出しては胸を苦しくさせていた。
忘れられるわけがないんだ。
あんなことがあったのに、忘れられるわけなんかない。
過去の苦い思い出は、苦いだけじゃなく甘さも含んでいる。
おかげで気を赦すとふとした瞬間に思い出し、鼓動を速くさせていた。
その鼓動を心地よく感じる日もあれば、苦しくてどうしようもなく切なくなる日もあった。
私にこんな感情を植え付けた秋斗は、何もなかったような顔をして今になって目の前に現れた。
そう。
いつだって秋斗という人は――――……。