春に想われ 秋を愛した夏


秋斗のことを考えて気を緩めていたところへ電話が鳴り、ビクリと体が反応する。
驚きに、別の心音が鼓動を速めた。

その鼓動を抑えるように胸に手を当てながら携帯を確認すると、いつもの場所で飲んでいるから来ないか。という塔子からのメールだった。

冷蔵庫に何もないことを理由に、食事も兼ねて出かけることにする。
本当のところは、秋斗のことを今は考えたくはないからなのだけれど。


「こっち。こっちー」

自宅から歩いて五分もしない店のドアを潜ってすぐに、ビール片手に塔子が手を上げて迎えてくれた。

「なぁに、また一人で飲んでたの?」

呆れた笑みを浮かべながら向かいの席に着くと、まぁねぇ。なんて、さして気にする風でもなく塔子は枝豆を摘んでいる。

塔子とは大学時代からの友達で、示し合わせたわけではないのだけれど、同じ最寄り駅に住んでいた。マンションも、お互いに歩いて五分の場所にある。

何なら同じマンションに住んじゃう? なんて、塔子はおよそ冗談には取れない真顔で言っていたこともあった。
次の契約更新が来た時、もしかしたら彼女は、本当にうちのマンションに越してくるかもしれない。
空きがあればの話だけれど。

「本当。塔子って私のこと大好きよねぇ」

いつもこうやって呼び出す塔子へ冗談を言いながら、私もビールを注文した。

「香夏子ほどじゃないわよ」

両想いだからねぇ、うちら。なんて言って、塔子はケタケタと笑っている。


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