春に想われ 秋を愛した夏
それにしても、私を訪ねてくるなんて、誰だろ?
春斗?
けど、春斗がスーツって、ないよね。
……まさか、秋斗?
―――― なわけないか。
いくらなんでも、わざわざ私宛に来るなんて、それこそないよね。
「まぁ、いいや。さ、仕事仕事」
誰なのかも解らない訪問者を、気にしている暇はない。
PCに向かえば、仕事は山積みだ。
残業は、できるだけしたくない。
うちの会社は、外資でもないのに残業=仕事できない人間とみなされる。
意味もなく残業を強いられる、日本企業の風潮がないのがいいところ。
ちゃっちゃと片付けて、今日もさっさと帰宅しよう。
定時三十分前。
仕事にラストスパートをかけていたら、隣の新井君からヘルプがかかった。
「悪い、蒼井。ちょっとこれ手伝って」
「えぇー。私定時に上がりたいのにー」
わざとかわいこぶって訴えかけると、全然可愛くない。と真顔で言われて睨んでみたけど少しも動じない。
「あのね。それが人に物を頼む態度?」
「ああ、ごめんごめん。お前の顔見てたら、つい口が滑った。今度、昼飯おごるから、な」
これは、剃り残しと言った仕返しか?