春に想われ 秋を愛した夏
不満ながらもお願い倒されて、渋々PC画面を覗き込む。
「オッケー。じゃあ、ちょっとこっちのデータとここの部分。私の方に送って」
「了解。よろしく頼みますっ」
勢いをつけてエンターを押す新井君に、豪華なランチよろしくと言って仕事に取り掛かった。
ジャスト一時間後。
「しゅーりょー」
勢いづけて仕上げたデーターを、新井君へ差し出した。
「さすが、蒼井。マジ、感謝」
新井君は、出来上がったデータを確認してから、お地蔵様にでも拝むみたいに私へ向かって手を擦り合わせている。
そこまでありがたがられるのも、なんだかくすぐったい。
「豪華なランチ、期待してるからね」
照れ隠しに人差し指でビシッと顔を指すと、わかった、わかった。と面倒くさそうに手で払われる。
ありがたいと感謝しているわりには、雑な扱いだ。
「じゃあ。お疲れ」
「昼飯、期待しとけ。サンキューな」
新井君に片手を上げ、さっさと帰り支度をしていると、あっ。と思い出したような声を上げた。
「そういえば、昼間訪ねてきたやつだけど。蒼井のこと、一瞬香夏子って呼び捨てにしてたな。知り合いなんじゃね?」
新井君が思い出したことに、訪ねてきたのはやっぱり、秋斗かも知れないと感じた。
けど、どうして?
秋斗が私を訪ねてくる理由なんか、一つも思いつかない。
私が秋斗を訪ねるなら、少し解るけど……。
万が一にも私がそんな状況になるとすれば、今も忘れられない気持ちをもう一度伝えたい。
そんなところだろう。
けど、もう一度なんて、撃沈すると解っているだけに、やっぱないか。
勇気とかそういうレベルじゃない。
もう、これ以上傷口を大きくしたくないし、生傷には戻したくない。
ああ、結局こうしてまた秋斗のことを考えてしまっている。
今朝、カフェで逢ったのがいけなかったんだ。
もう、あそこでのモーニングはないな。