空色バルコニー
16回目の夏
海が全く同じ波を決してたてないように、同じ夏は二度と訪れないーー。

1

終業式が終わり体育館から出ると、刺すような日差しが目をくらませた。生徒たちはガヤガヤと雑談をしながら教室に向かった。「海行こうよ!」「夏休みも塾かあ、はあ」「来週は原宿行こうね」
あちこちからそんな声が聞こえる。

暫くはあの退屈な教室から空を見なくてすむ。少し体が軽くなったような気がした。
ガリ勉の赤井 由美(アカイ ヨシミ)のうなじや、おとぼけ者の松田 介(マツダ カイ)が机の下でマンガをこそこそ読むのを見なくてすむし、念仏よりひどい炭酸の抜けたサイダーのように、甘ったるく、くどくどした教師の授業も聞かなくてすむ。

「小谷(コタニ)、この方程式を説明して見ろ」ゲリラのように突然聞かれあたふたするのもこれでしばしお別れだ。

ホームルームが終わり僕はナップサックを背負い、制服のボタンを二つ外した。
「晶太(ショウタ)もんじゃでも食って帰らないか?」
金井 茂(カナイ シゲル)が僕を呼び止めた。
「いいね。食って帰ろう」
なんせ四ヶ月も監獄にいたんだ。お祝いの一つくらいしたっていいだろう。そう思わないか?
ここときたら朝から晩まで、人生に必要なさそうなことに延々と付き合わされてるんだ。

「太田も誘おう」
僕はいった。太田 仁士(オオタ ヒトシ)と茂、そして僕。これがいわばクラスの仲間うちだった。40人のクラスの中で僕たちは小さなグループで、たいして目立つ存在ではなかった。

そそくさとクラスメイトたちは帰り、教室に残っているのは僕たちだけだった。ガランとした教室は、どこか空虚で、妙にセンチメンタルな気分を僕に感じさせた。意外と思い入れがあるのか。僕には好きな女もいないし、学校は窮屈な軍隊みたいなものだ。でも西陽が窓から入り、机やイスをオレンジ色に変えてしまうのを見ると、ふともう二度とここに来れないのではないか、という錯覚に陥った。

黒板に書かれたいたずら書きを見ると、僕はふん、と鼻を鳴らした。
うまく説明できない気持ちだ。このままいると、さらに寂しい気持ちになり、矛盾が僕に迫ってくるだろう。

「おい、晶太。行くぞ」
茂が僕を現実に連れ戻してくれた。
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